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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和55年(ネ)157号 判決 1984年9月28日

控訴人

中山玉利

控訴人

中山ツルエ

右両名訴訟代理人

小堀清直

亀田徳一郎

増田博

蔵元淳

被控訴人

右代表者法務大臣

住栄作

右訴訟代理人

伴喬之輔

右指定代理人

末永紘一

外三名

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  被控訴人は控訴人中山玉利に対し金五〇〇万円、控訴人中山ツルエに対し金二五〇万円、及び控訴人らに対しそれぞれその右各金員に対する昭和五三年一月六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

第一請求原因の検討

一当事者間に争いのない事実

<省略>

二事実の認定<省略>

三公権力の行使について

(一)  本件不発弾処理作業とそれに伴う山林防火活動が被控訴人の公権力の行使に当る公務員である警察職員ないしその委託を受けた米軍将兵がその職務として行なつたものであるとの控訴人ら主張の請求原因2の事実につき、被控訴人はこれを否認し、右不発弾の処理は当時超法規的存在で我国を占領統治していた米軍の責任で行なつたものである旨主張して争うので検討する。

本来、警察は当時施行されていた旧警察法(昭和二二年法律第一九六号)においても、国民の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の捜査、被疑者の逮捕及び公安の維持に当たることを以てその責務とするものであるから(同法一条一項、なお、現行警察法二条参照)、警察官は、人の生命若しくは身体に危険を及ぼし、又は財産に重大な損害を及ぼす虞のある天災、事変、危険物の爆発等危険な事態があり特に急を要する場合においては、その危険物の管理者その他関係者に対し、危害防止のため通常必要と認められる措置をとることを命じ、又は自らその措置をとることができるものと定められている(警察官職務執行法四条一項)。もとより、これは警察の前示責務を達成するために警察官に与えられた権限であるが、前認定二の各事実とくに二(一)ないし(五)の事実を考え併せると、住民がその居住する地区からさほど遠くない山林中に危険な不発弾三個があることを発見し、同部落住民から「危険だから処理して欲しい」旨の要望を受けた警察官としては、住民が砲弾類の危険性についての知識の欠如からこれを不用意に取扱いこれが爆発して人身事故等が発生する危険があり、住民等としてはこの危険を通常の手段では除去することができないため、これを放置するときは住民等の生命、身体の安全が確保されないことが相当の蓋然性をもつて予測されうる状況のもとに、前示のように住民から不発弾の処理の要望を受けたのであるから、警察官において右権限を適切に行使し、自ら又はこれを処分する権限・能力を有する機関(本件事故当時は米軍、現在では自衛隊など)に要請するなどして積極的に不発弾の回収、爆破処理を行なうなどの措置を講じ、もつて不発弾の爆発による人身事故等の発生を未然に防止すべき職務上の義務があるというべきである(最判昭五九・三・二三判時一一一二号二三頁参照)。

(二)  このような観点から本件不発弾の処理作業をみると、前認定二の(二)ないし(五)の事実のとおり、高免部落を管轄する派出所に補勤していた田中秀雄巡査が管内の住民から危険な不発弾の処理の要望を受け、その所在を確認したうえ本署に連絡しておいたところ、本署から米軍処理班が行くとの指示を受け、本署である国家地方警察鹿児島地区警察署警察官永仮正憲が同警察署配備の警備艇で案内してきた米軍兵士二名を船着場から不発弾処理現場に同道して本件不発弾処理に当つたものであるから、公権力の行使に当る田中巡査が警察官として前示(一)のとおり不発弾を処分する権限・能力を有する米軍に要請して不発弾の爆破処理をなし、もって不発弾の爆発により人身事故等の発生を未然に防止すべき職務を遂行していたものというべきであつて、これが警察、したがつて被控訴人と無関係な超法規的存在である米軍が独自に行なつたもので、本件事故は消防団の自損行為にすぎないなどという被控訴人の主張は到底採用できないものである。

(三) なお、<証拠>によると、昭和二四年六月一三日鹿児島地区警察署長が事実証明をする本件の「焼夷弾処理作業員の被害調査書(現鹿児島市)」(乙第五号証)には、「昭和二十四年二月十四日午後二時頃進駐軍将兵二名(小倉弾薬処理班)来島し焼夷弾処理に作業員の要請を西桜島巡査駐在員に云い、駐在員より高免消防分団長森光重外十名に協力方要請、各人消火器具を持ち現場湯之尻(高免部落より徒歩にて、四、五十分位東方)に行き未処理弾三発の作業に取り掛つたのであります」と記載されており、ここでは米軍将兵が突如桜島に来て駐在所巡査に作業員の要請をしたことにしており、本署である鹿児島地区警察署は全くこれに関知せず米軍が警察と無関係に独自に本件不発弾処理を行なつたかのような表現になつているが、これは派出所勤務の当の田中秀雄巡査及び本署の永仮正憲警察官等が原審証人として証言する前認定二の(二)、(四)の事実、即ち、昭和二四年二月初頃右田中巡査は住民から不発弾処理の要望を受け、その所在を確認して本署へ連絡し、その後本署から米軍処理班が行くとの通知があり、事故当日の同月一四日に米軍将兵二名を本署の警察官永仮正憲が同署配備の警備艇で現場付近の船着場に案内してきた事実などに照らし、当時にありがちな責任回避ないし責任転嫁的文書であるというほかなく、到底措信できないものである。

また、<証拠>によると国家警察本部刑事部長から昭和二四年九月二日に「爆発兵器類の取扱について」と題する通達がなされており、これは本件事故のあつた同年二月一四日より以後のものであるが、「一、現場確認(一)所轄警察署において爆発兵器類発見の届出があつたときは、速やかに係員を派し状況を確認すること。……四、報告……(二)緊急を要する場合の連絡、都道府県本部においては……緊急に処理しないと人の生命、身体、財産に危険が切迫している等の緊急状態にある爆発兵器類については、従来通り発見日時、場所、物件名、数量、所在地、所轄警察署名等を速やかに現地民事部〔占領軍民事部〕に報告し緊急処理につき要請すること。」と定められているのであつて、同通達の直前である本件事故当時も右通達四(二)にいう「従来通り」の扱いとして同一(一)により不発弾の発見届出を受けた前示田中巡査が現場を確認し、これを本署である鹿児島地区警察署に通報し、同署から本件不発弾緊急処理を現地の占領軍民事部に報告がなされ、前認定二の(二)ないし(五)のとおり米軍小倉弾薬処理班の兵士二名が派遣され、その処理に当つたものと認められ、前示措信しない乙第五号証のほかこれを動かすに足る証拠がない。

(四)  したがつて、本件不発弾の処理は公権力の行使に当る警察官ないしその要請を受けた米軍将兵二名がその職務として行なつたものであるとの控訴人ら主張の請求原因2の事実はこれを肯認すべきものであると考える。

四過失の有無の判断<省略>

第二長期時効の検討

一期間の法的性質などについて

被控訴人は、抗弁として、民法七二四条後段の起算日は加害行為の時であるから、本件事故発生日から本訴提起日(昭和五二年一二月一七日)までに二八年一〇月か月余経過している。右規定は除斥期間であるが、仮りに消滅時効であるとしても、本訴でこれを援用すると主張し、控訴人らは本訴提起日を認めるほかこれを争い、起算日は損害発生日であると主張して争うので検討するに、民法七二四条後段所定の二〇年の期間は、その「二十年ヲ経過シタルトキ亦同シ」として前段の「時効ニ因リテ消滅ス」を承けた規定の文言、立法者の消滅時効であるとの説明、加害者及び損害の認識を前提とした不法行為に独特の三年の短期時効を補充するものであること、時効の中断、停止、援用を認めないと被害者に極めて酷な場合が生ずることなどに照らし、消滅時効を定めたものと考える。たとえ、これを除斥期間を定めたものと解するとしても、被害者保護の観点から時効の停止、中断を認めるいわゆる弱い除斥期間(混合除斥期間)であるというべきである。

そして、その起算日は同条後段の「不法行為ノ時」という法文や長期時効設定の趣旨からみても加害行為の時であるというべきであり、本件では事故発生の昭和二四年二月一四日であつて、その後の個々の損害の発生日ではない。

したがつて、同日から本訴提起日までに既に二〇年以上経過していることが明らかであるから、本件事故による控訴人らの被控訴人に対する国家賠償法一条に基づく損害賠償請求権は時効の中断などがない限り一応右長期時効が完成しうる状態にあるというべきである。

二時効利益の放棄について<省略>

三時効援用権等の濫用について

(一)  国民は憲法一七条に基づき基本的人権の一つとして、公務員の不法行為により、損害を受けたときは国家賠償法の定めるところにより国又は公共団体にその賠償を求める権利を有するのであつて公務員はこの条項も憲法の一部として尊重し擁護する義務を負うことはいうまでもない(憲法九九条)。

そして、国政は国民の厳粛な信託によるものであるから、国は国民に対し信義誠実を旨としてその国務を遂行すべきであり、しかも公文書はその内容が真正でなければならないのであつて(刑法一五六条参照)、いやしくも自己の損害賠償責任が明らかであるのにその責任を免れるため加害行為への関与を隠蔽するような公文書を作成するなどして責任回避の言動をすることは許されないと解すべきところ、前示一の三の事実、とくに同三(三)において説示したとおり本件事故直後鹿児島地区警察署長名で同署が本件不発弾処理に全く関与せず不意に駐在所に訪れた米軍兵士二名を派出所巡査が現場を案内したに過ぎないという事実に反した被害調査書(乙第五号証)が作成されたため、爾後その責任の所在が不明となり、その結果控訴人らが前認定第一の二(一九)のとおり被控訴人の委任事務を担当する鹿児島県庁の係員などに必死に被害の救済を訴えても要領を得ず、たらい回しにされ所管部局も判明しないこととなつたことが認められる。

(二) さらに、前示二のとおり占領軍給付金規定に基づく給付金を被控訴人が控訴人らに対し支給したことは時効中断事由である時効利益の放棄に当らないけれども、これは前示第一の三、四のとおり、本来公権力行使に当る警察官の職務上の過失による本件事故につき被控訴人が控訴人らに対し損害賠償義務を負うものであつて、民法七一九条に基づきこれと不真正連帯関係に立つ米軍ないし米軍兵士の共同過失による損害賠償義務の一部を被控訴人が占領軍給付金法に基づき行政政策上の理由から肩替り支払う性質を具有するものというべきところ、右給付金の支給を担当した防衛施設庁の係員は前示二のとおり被控訴人の損害賠償義務の存在を知らなかつたのであるが、本件事故当時鹿児島地区警察署係員においては被控訴人の損害賠償義務を知り、少なくとも容易に知り得べかりし状況にあつたというべきであり、しかも右両係員とも被控訴人の被用者であるから、前示給付金の支給の際に被控訴人が米軍兵士との前示のとおり不真正連帯債務の関係にある被控訴人の損害賠償義務を知らなかつたことには過失があるというべきであること、しかも、右給付金の支給はその前示法的性質に照らし被控訴人の本件事故による損害賠償の一部に填補、充当されるべきものであると考えられる。

(三) そして、被控訴人らは前認定第一の二(一九)のとおり本件事故後現在にいたるまで鹿児島市役所、鹿児島県庁などの被控訴人の出先機関等に何度となく被害の救済を求めているのであつて決して権利の上に眠る者とはいえないし、そもそも消滅時効ないし除斥期間は主として弁済者の二重弁済を避けさせるための制度であるから、本件のように被控訴人が損害賠償債務を履行していないことが当事者間に争いがなく明白な場合には時効などの保護を与える必要性に乏しく、時効等はできるだけ制限して解釈するのが相当であることに照らし以上の各事由を総合して考えると、被控訴人が本件事実関係のもとにおいて控訴人らの本件損害賠償請求権につき消滅時効を援用ないし除斥期間の徒過を主張することは、信義則に反し、権利の濫用として許されないというべきである(なお、最判昭五一・五・二五民集三〇巻四号五五四頁参照)。

(四)  なお、前示権利濫用の事実は控訴人らが権利濫用の抗弁としていう憲法二五条を根拠とした抽象的な責任秘匿の主張とは必ずしも一致しないけれども、控訴人らが権利濫用の抗弁を主張する以上その基礎となる客観的主観的事実関係はその主張に限定されることなく、それが口頭弁論へ上呈され、証拠により認定できる限りこれを認めて差支えないと考える。

したがつて、被控訴人が主張する長期時効の援用ないし除斥期間経過の主張は信義則違反ないし権利の濫用に当り許されないといわねばならない。

第三短期時効の検討

一加害者の認識について

被控訴人は控訴人玉利は本件不発弾処理現場において警察官の危険防止措置とその過失を認識していたのであつて、受傷時ないし受傷後間もなく加害者が被控訴人であることを認識し得たものであるから、遅くとも同控訴人が本件受傷による症状が固定し、損害を知つた昭和四二年七月一四日の時点から三年の経過により民法七二四条前段の短期消滅時効が完成した旨主張するので、まず加害者の認識につき検討する。

民法七二四条前段所定の「加害者ヲ知リタル」とは、国家賠償法一条の場合、被害者らにおいて、国又は公共団体ならびにこれらと不法行為者である公権力の行使に当る公務員との間に使用関係がある事実に加えて、一般人が当該不法行為が国等の公権力の行使たる職務を行うについてなされたものであると判断するに足る事実をも認識することをいうものと考える(最判昭四四・一一・二七民集二三巻一一号二二六五頁参照)。

ところで、前認定第一の二(二)ないし(五)の事実を考え併せると本件不発弾処理現場において田中巡査が米軍将兵二名において不発弾の爆破処理を行なうのに立会い消防団員らに対し一定の指示をしていたことを控訴人玉利が認識していたことは明らかであり、このことから前示一般人が当該不法行為(危険防止措置の不適切)が国の公権力の行使に当る公務員である田中巡査がその職務を行うについてなされたものであると判断するに足る事実を認識したものとして、民法七二四条前段所定の加害者を知つたものという余地がないではない。

しかしながら、前示第一の三(三)及び、第二の三のとおり本件不発弾処理の責任を有する鹿児島地区警察署において同警察署が全くこれに関与せず、進駐軍将兵二名が突如西桜島巡査駐在員を訪ねて応援を求め独自に処理し事故を起こした旨の事実に反する被害調査書(乙第五号証)を作成したため、事故直後から被控訴人の各機関はこの文書記載の事実を前提として本件事故の処理が行なわれ、前認定第一の二(七)、(一二)、(一四)のとおり進駐軍ないし占領軍の加害行為に対する見舞金や給付金を支給する一方、同二(一九)のとおり被控訴人の出先機関係員などでさえ、被控訴人に本件事故の賠償責任があることに気付かず、控訴人らの被害救済の申出に対し徒らに他の機関への出頭を促がすことを繰返し、いわゆるたらい回しにするのみで責任の所在すら判明しなかつたことなどの事実関係の下においては、民法七二四条前段の短期消滅時効が被害者の感情の時の経過による回復を考慮したもので、その点にその特殊性があることに照らし、本来加害者の認識は単に知らねばならないというのみでは足らず、これを確知することを要するのが原則であるところ、前示のとおり国家賠償法一条の場合、一般人が国の公権力の行使である職務を行うについてなされたものであると判断するに足る事実を認識するをもつて足りると解されるのは、法の不知ないし法律判断の誤りを考慮しないことを意味するにすぎないものであることを考えると、本件においては前示のとおりの事情により被控訴人の出先機関などでさえ控訴人らから本件事故の経緯を聞いても本件事故が国の公権力の行使である職務について行なわれたものであることを知らなかつた、あるいは判断できなかつたものであるから、一般にその判断が可能な事実を控訴人らが知つたものとはいえないし、自らその判断を誤らせる証拠を作成した被控訴人において、控訴人らに加害者が被控訴人であつたことが認識し得たものとして、その判断の誤りを咎めることは信義則に照らし許されないと考える。

したがつて、控訴人らが受傷時ないし受傷後間もなく加害者が被控訴人であることを知つたという被控訴人の主張は採用し得ないし、本件全証拠によるも本訴提起直前に至るまで控訴人らにおいてこれを知つたと認めるに足らない。

二時効援用権の濫用について

前示のとおり、控訴人らに加害者の認識が認められないから被控訴人の短期消滅時効の抗弁はその余の判断をするまでもなく失当であるが、かりに加害者及び損害の認識が被控訴人の主張のとおりであるとしても、被控訴人の時効の援用は前示第二の三と同一の理由により信義則に反しかつ権利の濫用として許されないものである。<以下、省略>

(吉川義春 甲斐誠 玉田勝也)

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